今年もまた、NISの桜は見事な花を咲かせました。春休みが明けた第4クオーターの初日、満開の桜の枝が幾重にも覆いかぶさるように伸びたプレイグラウンドには、舞い始めた桜吹雪の中で元気に走り回る生徒たちの姿がありました。去年のこの季節、同じ桜が咲き誇っていたこの場所に生徒たちの姿はなく、静寂に包まれていたことを思い出します。1年前の2020年3月から約3ヶ月間、NISは全校オンライン授業を実施していました。
以前は春になれば当たり前だった校庭の桜、これから学年度末に向けて実施されるエキシビションや発表会など様々なイベント、そして何よりも毎日の学校生活を、揃ってキャンパスで迎えられることに、改めて大きな喜びを感じています。やはり学校という場所は生徒の姿があってこそ、学習は生徒同士、生徒と教師との交流があってこそ、活きて意味のあるものになるのです。
前代未聞の全国一斉休校が要請され、NISが授業をオンラインに移行する決断を下したとき、NISの学習環境やIBプログラムがオンラインで実現できるのか、生徒の心身の健康を守ることができるのかが最大の懸念かつ最優先事項でした。
グループワークやディスカッション、プレゼンテーションなどによる自己表現、個々の生徒の興味、スキル、目標に合わせた指導やサポートなどをオンライン授業で実現するのは困難なようにも思えます。それでも、保護者や生徒、教師からのフィードバックは概ね肯定的で、NISのオンライン授業は成功だったと言えるでしょう。
初めてのオンライン授業から1年を経過した今、日本の学校とは違う、インターナショナルスクールで、何故オンライン授業が成功したのか? いくつかの要因を振り返ってみました。
NISでは普段から学校と家庭との主要なコミュニケーションの手段はEメールやオンラインが中心です。中等部以上の生徒は各自授業で使用するデバイスを持参することが求められており(BYOD=Bring Your Own Device)、課題の確認、提出にはポータルサイトを利用します。コンピューターの授業は小学生から始まります。
つまり、NISには既にオンライン授業に必要なIT環境が整っていました。当然オンライン授業には一人1台のコンピューターが必要ですが、足りない家庭には学校から貸し出すことで対応しました。当時530名だった生徒に対し、貸し出したコンピューターは約50台でした。
主に教科書に沿って学習する一般的な日本の学校とは対象的に、NISの学習の中心にあるのは教科書だけではありません。カリキュラムや授業計画は、担当する教師がチーム体制で構築します。一年間で網羅する学習テーマを決め、それらを中心に理解すべき概念、習得すべきスキルなどの学習目標を立てます。教科書は主に、必要に応じて参照したり、問題を解いたりする程度に利用します。教室での授業は、ディスカッションやコラボレーション、図書館やインターネットを利用してのリサーチを中心に、時にはフィールドトリップに出かけたり教室にゲストスピーカーをお招し、専門家や現場の声を聞き、自らの体験を通して学び、また学んだことを実践することを大切にしています。身近なところからグローバルな問題まで、私たちの生きる世界を理解し、より良い世界をつくることに貢献するというIBの理念はNISの教育が目指すところでもあり、そのための生きた学習、つまり、教科書のみに頼らず、身の回りのあらゆることを題材として学ぶ教育環境が、オンラインで更に活かされたことも、オンライン授業の成功の要因だといえます。テクノロジーのおかげでオンラインでのディスカッション、コラボレーション、リサーチは容易に、時に対面で行うよりも便利に出来るようになりました。オンライン授業で多く出された、自宅で身近なものを利用したり、調べたりする課題は、机上の理論に留まらず、学習内容と日常生活とを結びつける役割も果たしました。そして何と言っても最大の恩恵は、オンラインを通じ世界中の様々なエキスパートと交流する機会に恵まれたことです。オンラインだからこそ可能な機能やコンテンツにより、学習はより幅広く、深く、充実したものになりました。中・高等部の生徒たちが、世界中のエキスパートとのオンラインでの交流を行った「Meet the Workers Day」について更に詳しくはこちらをご覧ください。
大人でさえ、職場とは異なる環境で自らを律しリモートワークに従事する大変さを実感した人は多いのではないでしょうか。生徒の多くも、最初は生活リズムや学習と余暇のバランスに悩みつつも、次第にそれぞれに規則正しい生活と毎日のルーティーンを確立していったようです。それを可能にした要因のひとつは、自主性を重んじる教育環境です。NISでは、3歳児であろうと、高校生であろうと、常に、自立すること、そして、自分の学習に責任を持つよう指導しています。主体的に学ぶ学習が最も成果が高いからです。普段はクラスメイトと協力して行う課題も一人で行うと正解が分からなくて悩むこともあるでしょう。でも、そうして悩むこと、正解が見つからないことも学習です。世の中には答えがないこともたくさんあるのですから。
最も重要で忘れてはならないのは保護者のサポートです。保護者の理解と協力がなければ、オンライン授業は実現できませんでした。NISでは日頃から、学習の結果(成績)だけでなく、学習の過程も保護者と共有し、子どもの学びに関わっていただくよう努めておりますが、オンライン授業では保護者が子どもの学習の過程を間近に見守り、時には一緒に課題をこなしたりサポートすることにより、NISの教育や教師の意図、学習における子どもの日々の成長について、理解を深めていただく絶好の機会にもなりました。
また、学校と家庭のコミュニケーションはより一層頻繁に、きめ細かいものになっていました。週に2、3度、新型コロナウィルスに関する最新情報や学校の方針などをお知らせするメールを送信し、最新情報を保護者と共有するよう努めました。このことはコミュニティの大多数を占める日本語を話さない保護者が、コロナ禍の日本で安心して暮らすためにも重要でした。保護者と校長がオンラインで会議できる機会を定期的に設け、重要な意思決定の際には保護者アンケートを実施しました。
こうして保護者の皆様に支えられ、コミュニティで力を合わせ、より一層強い絆をもってオンライン授業期間を乗り越えることができました。
しかしながら、オンライン授業には課題や問題点もありました。特に、小学生以下の小さな子どもたちの保護者の皆様には大きなご負担をおかけすることになってしまいました。オンラインだからこその恩恵を享受し、新たな可能性を見出した一方で、オンラインでは叶わない、対面だからこそ出来ることの重要性も改めて認識することになりました。
NISがキャンパスを主な教育の場とする学校である以上、そして様々な人や社会との関わりが制約を受けるこんな時代だからこそ、私たちの学校は、せめて学校コミュニティ内では、出来る限り対面での交流や活動を通して学びを深め、成長出来る安全で安心な場所でありたいと願っています。
新型コロナウィルスをめぐっては、未だ予断を許さない状況が続いています。取り返しのつかない多くのものが失われました。私たちの生きる世界が元どおりになる日が来るのかどうかも分かりません。しかしながら、この経験を通して私たちは多くを学び、絆を深め、強くなりました。それらは今後、私たちの子どもたちの学びをより豊かなものにすることでしょう。