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緑のガウンを着て1列に並んで歩く12年生を、拍手と歓声が包み込みます。卒業式を翌日に控えた12年生を、下級生や教師、職員全員が、讃え、新たな門出を祝う「Walk of Pride*」。名古屋国際学園の新たな伝統行事となりましたが、コロナ禍で卒業式への参加が制限されている近年、先輩たちの晴れ姿を間近に見られるWalk of Prideは、一層重要な行事となりました。
名古屋国際学園(Nagoya International School - NIS)は、3歳児から12年生までの約380名が同じキャンパスで学ぶインターナショナルスクールです。1学年は約20名から多くても35名前後、決して大きな学校ではありません。プリスクールから高校生が同じスクールバスに乗り、同じ校庭や隣のプレイグラウンドで休み時間を過ごします。
小さな生徒たちにとって上級生はお兄さん、お姉さんのような存在です。コロナ禍以前、学校関係者誰もが自由に卒業式に出席出来た時代には、小さな生徒たちが慕っている卒業生に花束を渡し、一緒に記念撮影する姿が沢山ありました。プリスクールから高等部までの一貫教育で、時に活動を共にしたり、学びを共有しているからこそ生まれる関係性です。それはコロナ禍で一時的に制約を受けた時期はあったものの、根本的に今でも変わりはありません。
例えば、高等部の課外活動には、小学生と交流するクラブがあります。放課後、希望する小学生に1対1で勉強を教える「PLAN」。同じ言語を母国語とする生徒が集まり、母国語を使って様々なアクティビティを行う「Home Language Club」。プリスクールやキンダーガーテンの教室を訪れ一緒に遊ぶ「International Child Care Club」。また、小学生対象のASA(アフタースクールアクティビティ)で、クラフトや絵画のクラブを主導する生徒もいれば、環境保全や人道支援など、各自が信念と情熱を傾ける活動についての啓蒙や寄付金募集を目的に、下級生の教室を訪ねたり、小学部、中等部の集会でプレゼンテーションをする生徒もいます。コロナ禍で中断していますが、保護者が集まる行事でチャイルドケアが必要な時は、高校生が小学生以下の子どもたちの世話をする担当教師のサポートを務めます。学校全体の行事の際には、異なる学年が縦割りのグループになり、上級生が下級生を主導することもあります。
こうした縦割りの異年齢交流は、授業の中でも活用されています。インターナショナルスクールでは、単元のまとめとして、各自またはグループによるプレゼンテーションで学習内容を共有することがあります。あるクラスや学年がプレゼンテーションをするとなると、その教室は解放され、入れ替わり立ち替わり教室を訪れる他の学年の生徒や教師に向けて発表をすることになります。例えば小学3年生のプレゼンターが、年下の生徒にも分かるようにゆっくり丁寧に噛み砕いて説明していたり、高校生を相手に緊張気味に話す姿、高校生がそんな小学生に優しく質問したり励ます姿はとても微笑ましいものがあります。
また、小学生が作った物語を高校生がアニメーションにしたり、高校生が小学生のためにバイオテクノロジーについてのプレゼンテーションを行うなど、それぞれの学習している内容を関連付け、異なる学年がコラボレーションすることもあります。
下級生は上級生の影響を受け、見習おうとします。小学部の集会で見た高校生のプレゼンテーションに触発され、自分も何か行動を起こしてみようと、絶滅危惧種を救うための募金活動を始めた小学1年生がいました。ある小学5年生の生徒は、中等部の生徒によるジェンダー平等の訴えから、初めて男女の格差についての問題を知り、自らのPYPエキシビションのテーマとしました。チャイルドケアで上級生に優しく接してもらった経験を持つ生徒は、自分が上級生になった時には同じようにしたいと思うようになるでしょう。
一方で、上級生も下級生と関わることで学ぶことが少なくありません。同年齢の生徒の間では先頭に立つことがない生徒でも、下級生と一緒に活動する中でリーダーシップを発揮します。年下の子どもと関わったことがなかった生徒が、小さい子どもと遊ぶことで弱者を思いやる気持ちや人を楽しませることの喜びを知ることもあるかもしれません。
これらは、3歳児から高校生までの生徒が日々同じキャンパスで学びや活動を共有するからこそ得られる経験です。年長者は年少者を慈しみ、手本となり、また年少者は年長者を慕い、憧れながら、互いに同年齢の子ども同士だけでは得られない知識や経験を獲得することが出来るのです。生徒の国籍30カ国以上、言語の数は20以上という多国籍なコミュニティにおいて、異なる年齢層の子どもたちが自由に交流する環境が、NISの多様性に更に奥行きをもたらしています。コロナ禍で人との交流に制限がある、または少子化、核家族化で同年齢の子ども以外との交流が少なくなっている昨今、こうした環境が子どもたちの社会性の発達に果たす役割も大きいのではないでしょうか。
全校生徒の数が300名足らずだった15年ほど前のある時、キンダーガーテンの生徒が高校生に聞きました。「コウチョウセンセイ(Head of School)って何?」高校生はこう答えました。「君たち小学生や僕たち高校生が兄弟のようなものだとしたら、校長先生はみんなのお父さん。僕たちの学校は大きな家で、僕たちみんなは大きな家族みたいなものなんだよ」と。
大きな家族のような、ほどよく小さな学校。これは生徒数が増えても、新しい校舎が出来ても、パンデミックを経験しても変わることのないNISの大きな特徴の一つです。Walk of Prideがコミュニティ全体にとって特別で感慨深いものである所以です。そして小さな子どもたちはいつか、憧れのお兄さん、お姉さんのようになれることを目指して、日々の探求を続けていくのです。
*2022年のWalk of Pride の様子はこちらからご覧いただけます。